今年のヴェネチア映画祭は、コンペティション部門に3本の日本映画が選ばれたことで大きな話題となったが、それぞれが協賛団体の出す小さな賞(『アキレスと亀』がバストーネ・ビヤンコ賞、『崖の上のポニョ』がミンモ・ロテッラ賞、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』がフューチャー・フィルム・フェスティバル・デジタル・アワード)を受賞しただけで、本賞の方に引っかかることはなかった。それは、新人を顕彰する役割に変わってきた最近の映画祭の傾向と、審査員の顔ぶれを見れば、ある程度予測がついたことだった。
プピ・アヴァティの“Il Papa di Giovanna(ジョヴァンナの父)”は、殺人を犯して刑務所に入れられた娘を、戦中、戦後を通して愛し続ける父親の姿を描いたもの。シルヴィオ・オルランドの演技には定評があり、男優賞の受賞は不思議ではないが、ミッキー・ロークの存在が大きすぎて、この受賞には最も異論が多かった。
ヴェルナー・シュローターの“Nuit de Chien(犬の夜)”は、戦いに勝利した軍がすぐそこまで迫ってきている無政府状態の港で、脱出する船の切符を求めて、負けた側の者たちが繰り広げるパワーゲームを描いたもの。鬼才らしいアイデアが詰まっていて、とても面白かったが、やはり、まったく別次元の作品なので、特別獅子賞を特設したのは、ミュンヘンの映画学校時代の元同級生(ヴィム・)ヴェンダースらしい配慮だと思う。